まっさらな無垢 カンナさんすぎなみ猫寮へ
「カンナ」さんを保護できたのは、ひとえに預りを申し出てくださった「猫寮母」さんのおかげです。
先日、無事に猫寮母さんにカンナさんを託しました。
カンナさんは猫寮母さんの「すぎなみ猫寮」で、終の棲家を探す旅に出ました。
もちろん僕もできる限りの協力をしながら、カンナさんの幸せ探しのお手伝いをしていきます。
引き渡し当日伺ったのは猫寮母さんのご友人Kさま宅。
5ヶ月の黒猫「はな」ちゃんが暮らしています。
Kさまは猫寮母さんが長くお留守にされる際、カンナさんのお世話をしてくださる方です。
Kさま宅が家から近く、顔合わせも兼ねて、ここでのカンナさん引き渡しをご提案くださいました。
すぎなみ猫寮でのカンナさんの生活スペースは事前に見せていただきました。
猫寮母さんは、カンナさんのために万全の態勢を整えこの日を迎えてくださいました。
Kさまがご用意くださった夕食がおいしくて、図々しくお腹いっぱいいただいてしまいました。
猫寮母さんは、犬猫の保護団体「ミグノン」さんでボランティアをされています。
猫の預かりボランティアの準備を整えたものの、ミグノンさんにちょうどいい猫がいなかったそうです。
ならば、「村の猫をと」僕に声を掛けてくださいました。
野生動物に襲われ命を落とす猫が後を絶たない飯舘村の窮状を憂いてのことです。
猫寮母さんの愛猫と家のキジトラ猫が似ていたのがご縁で、ネット上でのお付き合いは5年ほどになります。
猫寮母さんも被災地で生きる動物に思いを寄せてくださっており、昨年春の僕の写真展ではじめてお会いしました。
飯舘村に通うボランティアのブログで、猫の生活環境が厳しさを増していると知り、「自分にできることがあるなら」と、一人が一匹に手を差し伸べる輪に手を挙げてくださいました。
カンナさんと僕が出会ったのは2012年夏です。
「工務店」と呼ばれる餌場で、飼い猫の「クロ」と寄り添うように生きていました。
クロは1年ほど前から飼い主と暮らしています。
カンナさんは、「ダイク」と呼ばれていました。
僕がオスだと勘違いして命名しました。
カンナさん、ごめんなさい。
ダイクにいちばんたくさんご飯を運んでくださったボランティアの「日比」さんが、女性らしい名前を付けてくださいました。
ここにはカンナさんの他にも数匹の猫が暮らしています。
彼らの命をかろうじてつないでいたのは、ボランティアの給餌と野生動物から餌を守る餌場。
しかし、カンナさんはいつも空腹を抱えていました。
人の工夫を優に上回る野生動物の生への執着が、猫たちが十分な餌を口にするのを阻み続けてきました。
カラス、タヌキ、キツネ、ハクビシン、アナグマ、イノシシ、サル。
自然豊かな農山村には多くの野生動物が生息しています。
人の営みが消え、人の世界は野生に飲み込まれつつあります。
2014年秋ごろまで、カンナさんはかわいげのない猫でした。
車の音がすれば、ご飯の期待を胸に姿を現すものの、一歩近づけば物陰に身を潜める。
カンナさんの体に触れることなど想像できませんでした。
カンナさんと人をつないでいたのは、人が運ぶご飯だけだったのかもしれません。
しかし、カンナさんが口にしたひとくちひとくちには、人のやさしさが含まれていました。
あれから4度目の冬が訪れる頃、カンナさんは人との距離を縮めてくれました。
数多いる村の猫から僕が手を差し伸べられるのは、ほんの一握り。
カンナさんの変化が家猫への道を開きました。
カンナさんを保護した日は、旅立ちに相応しい快晴。
カンナさんは故郷を後にしました。
もう空腹を感じることはありません。
寒さに震えることもありません。
野生動物に怯え眠る必要もありません。
もう黒い袋のそばを歩くこともありません。
カンナさんは家で10日ほど過ごしました。
削りたてのまっさらな木のように生まれ変わりました。
まるで釘で打ち付けた板のように強固に人の肌に密着し、人への親愛を表現するようになりました。
秘めていた無垢さが溢れだしてきました。
カンナさんの心に刻まれた4年近くの辛苦が削り取られていくのだろうと思います、人のやさしさや愛に触れるこれからの時間で。
村に暮らす猫をすべて保護することはできないかもしれません。
しかし、一人の行動には一匹の猫の道を開く力があります。
猫寮母さんの行動に敬意を表します。
ありがとうございました。
カンナさんをよろしくお願い致します。
カンナさんの最新情報は、猫寮母さんのTwitterとブログでご覧いただけます。
カンナさんが幸せをつかめるよう、応援よろしくお願い致します。
Twitter:@Nekoryobo
ブログ:『すぎなみ猫寮』
最後までご覧いただきありがとうございました。
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